Julian-Claudian, the Roman Emperor? (S・S・ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』より)

 S・S・ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』の新訳(日暮雅通訳、創元推理文庫、2024年)を読んでいて、「ユリアヌスークラウディウス(四世紀ローマの皇帝)」(同書、109頁)という言葉が出てきた。銃による殺傷事件が起きたグリーン家の退廃について主人公のヴァンスが語る場面で、「ウィッテルスバッハ家」、「ロマノフ家」、「アッバース朝」と並んで旧家の退廃の例として挙げられている。同じ部分を別の訳で確認すると、「ジュリア・クローディアン王家(四世紀のローマ王家―訳者)」(延原謙訳、新潮文庫、1959年、97頁)とある。引用部分の丸括弧内はどちらも訳者による割註である。

 原著で確認してみると、"the Julian-Claudian house" (Charles Scribner's, 1928, p. 87)とあった。"Julian-Claudian"は"Julio-Claudian"のことであろう。四世紀のローマ皇帝「背教者」ユリアヌスがFlavius Claudius Julianusというとはいえ、言及部分は、アウグストゥスに始まってネロに終わるローマ帝国の王朝である「ユリウス・クラウディウス朝」を指すとみるのが妥当である。