「ウォーターローの海戦」?

 先日、平井呈一訳『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)を読んだ。

 登場人物の一人ジョナサン・ハーカーが「弁理士」とされていたが、やっている仕事は「事務弁護士」のそれだよなと思っていたら、案の定原語は"solicitor"だった。

 またジョナサンの婚約者で後に彼の妻となるミナの日記の中のイングランドの北海に面する港町Whitbyの老人について以下の記述がある。

自分じゃかれこれ百歳だと言っているが、ウォーターローの海戦には、グリーンランドの水軍に加わった一人だそうだ。*1

 ウォータールーの戦い(「ウォータールー」でも「ワーテルロー」でもなく「ウォーターロー」という表記されているが)は会戦であっても海戦ではないし、グリーンランドデンマーク領で、デンマークナポレオン戦争でフランス側について敗戦国になっている。イギリス人が参加する「水軍」があったとは思えない(「百日天下」中の対仏同名にも加わってないようだ)。原文を確認すると以下の通りだった。

He tells me that he is nearly a hundred, and that he was a sailor in the Greenland fishing fleet when Waterloo was fought.*2

 (私訳: 彼は私に、自分はほぼ百歳で、ウォータールーの戦いが行われていた頃にはグリーンランド沖への漁船団で水夫をしていたと言った。)

  "fishing fleet"を"fighting fleet"と見間違えたことから発生した誤訳のようである。

*1:ブラム・ストーカ著、平井呈一訳『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)、東京創元社、1971年4月初版、2011年11月45版、105頁。

*2:Bram Stoker, Dracula (New York : Grosset & Dunlap, c1897), p. 60.