佐藤二葉『アンナ・コムネナ』3(星海社、2023年)

 
 
 『アンナ・コムネナ』3巻を読んだ。皇子ヨハネスの初陣にあたって、彼の従兄弟たちも出陣することになる。その中にアレクシオス一世の弟ニケフォロスの息子アレクシオスがいた。彼をVarzosのコムネノス家のプロソポグラフィーで調べてみた*1。情報は少なく、父の名とパンセバストス・セバストスの爵位を授かったことくらいで、生年は推測、没年や母の名は不明である(父のニケフォロス自体が目立った活動をしていない)。そして最後の一行はこうである。

Τίποτε ἄλλο δὲ γνωρίζομε γι'αὐτόν.

(我々は他には何も彼について知らない。)

 作中のアレクシオスは絵が得意なのだが、それを父親から「男らしく」ない、軍人にふさわしくないと言われている。だが、アンナは神から与えられた能力は活かすべきだという。一方皇子ヨハネスはこの「男らしさ」を追求するし、それに向いていると思っている。

 史実のアレクシオスは多分父親があまり活躍しなかったせいで自らも出世せず、歴史の表舞台からフェードアウトしてしまったのだと思うが、ひょっとしたら、コムネノス朝期の皇族・貴族にあった武人的エートスに合致しなかったため、史書に記述されなかった可能性があったのかもしれないと少し思った。